ニュースの概要
市場調査会社IMARC Groupは、世界のスパイス・調味料市場が2034年に451億ドルへ達し、年平均4.53%で成長するとの見通しを示した。背景にあるのは、加工食品、外食、家庭用の調味料で、より多彩な風味を求める声が強まっていることだ。成長の勢いそのものは穏やかだが、見逃せないのは味の開発手法の変化である。香辛料大手のMcCormickはIBMと組み、40年以上にわたる配合の記録、味や香りの評価結果、消費者の好みのデータをAIに生かす取り組みを進めている。競争の主役が原料の量から、味を設計する力へ移りつつあることを示す動きだ。
引用元: スパイス・調味料市場、2034年に451億ドル規模へ成長見通し。AI活用の調合開発も進展(IMARC Group)
分析・見解
年4.53%成長は地味でも、崩れにくい需要
451億ドルは、為替によるが7兆円前後の規模だ。年4.53%という数字は、AI関連市場のような急拡大とは違う。ただ、食品は景気が悪くても買われ続ける。調味料は一度の購入で何十回も使われ、家庭の台所に定着しやすい。基準年から2034年までこの率で伸びれば、市場はおよそ1.5倍になる。派手さはなくても、積み上がる力は大きい。
成長の中身も見ておきたい。ここで効いているのは値上げより「種類の増加」だ。減塩や減糖が進むと、味の物足りなさを香りや辛み、酸味で補う必要が出る。つまり調味料は、足すための道具であると同時に、減らすための道具でもある。この二つの役割が重なることが、需要の底堅さにつながっている。
味の好みを数字にする、40年分の記録の価値
McCormickとIBMの取り組みで本当に価値があるのは、AIの仕組みよりもデータの方だろう。配合の記録、官能評価(=人が味や香りを評価した結果)、消費者の好み。この三つが40年以上つながっている会社は多くない。AIは材料が良ければ強いが、材料が乏しければ力を出せない。他社が同じ道具を買えても、同じ記録は買えない。
AIの役割は、人の舌を置き換えることではない。数千通りある配合の組み合わせから、試す価値のある候補を絞ることにある。チリのNotCoが植物原料で動物性食品に近い味を再現するためにAIを使っているのも、同じ発想だ。試作を減らし、開発期間を縮める。最後に「おいしい」と判断するのは、やはり人である。
AIが苦手な、地域ごとの記憶に根ざした味
ただし、データがあれば何でも当たるわけではない。カレーの辛さの許容度、だしの香りへの期待、屋台の味への懐かしさ。こうした好みは、数値にしにくい文化や思い出と結びついている。データが少ない新興国や、少量しか使われない香辛料の分野では、AIの予測は外れやすい。
一方で、思わぬ使い道もある。気候変動でコショウやバニラ、唐辛子などの産地は不安定になりやすい。ある原料が高騰したとき、別の原料で近い味を再現する配合を素早く見つける。この用途は、新商品づくりよりも実務上の価値が大きいかもしれない。
競争の軸は原料から味の設計図へ移る
これまでの香辛料事業は、良い原料を安定して仕入れる力が強みだった。今後はそれに加えて、「どの味が、誰に、なぜ好まれたか」を残す力が問われる。設計図を持つ会社は、新製品も代替原料も速く作れる。逆に記録を持たない会社は、毎回ゼロから試すことになる。
たとえば同じ「ピリ辛」でも、若年層向けと高齢層向けでは好まれる刺激の質が違う。この違いを記録として積み上げた会社が、次の一手を先に打てる。市場の成長が緩やかなほど、この差は利益率に表れやすい。
ビジネスへの影響
まず自社の味の記録を使える形に整える
AI活用の第一歩は、ツールの契約ではなく記録の整理である。試作メモ、官能評価、顧客の声、売上。これらが担当者ごとにばらばらの表やノートに残っている会社は多い。まず一つの商品群を選び、配合、評価点、販売結果を同じ書式でそろえるとよい。数百件でも、並べて見ると「この組み合わせは高評価だった」という傾向が見えてくる。小さな会社ほど、この整理の効果は大きい。ここまで整えば、AIを使うかどうかに関わらず開発会議の質が上がる。
小さな実験で、効果を数字で確かめる
次に、用途を一つに絞って試す。たとえば減塩商品の風味補強や、季節限定品の候補出しである。測るのは三つで足りる。試作の回数、開発にかかった日数、社内試食での採用率。半年ほど続ければ、投資に見合うか判断できる。
外部の事業者と組む場合は、契約の中身にも注意したい。自社の配合データが相手のAIの学習に使われるのか、成果物の権利は誰のものか。ここを曖昧にすると、育てたデータが他社の強みになりかねない。
外食・小売は地域限定の味と原料の備えを考える
外食や小売にとっては、AI以前に商機がある。調味料の需要が風味の多様化で伸びるなら、自社ブランドのソースや香辛料ミックス、地域限定品は差別化になりやすい。店舗の購買データと味の評価を結べば、地域ごとの好みの違いも見えてくる。
もう一つは原料リスクだ。産地が一つに偏っていると、天候不順で価格が跳ねる。複数の産地を確保し、代替原料でも成立する配合を事前に検証しておく。平時の準備が、値上がり局面での利益を守る。
