最終更新日:
間借り営業とは何か
本ページの制度の説明は、厚生労働省と自治体の公開資料を引用した概要です。許可の要否や施設基準は自治体ごとに運用が異なる場合があるため、実際の手続きは営業所を管轄する保健所の窓口でご確認ください。原価の計算例は、前提をすべて明記した仮定のものであり、実際の収益を示すものではありません。
間借り営業とは、通常の飲食店舗が営業していない時間帯に、別の事業者がその店舗の厨房や客席を借りて、自分の店として営業する形を指します。たとえば昼はカフェとして営業する店舗の夜の時間帯を借りてカレーを提供したり、居酒屋の昼の時間帯にランチ専門のカレー店として営業したりする形があります。同じ設備を時間で分け合うことから「二毛作」と呼ばれることもあります。
スパイスカレーの開業で間借りが選ばれやすいのは、設備や内装への初期投資を抑えられるためです。カレーはあらかじめ仕込んでおけるため、提供までの時間が短く、少ない人数で回しやすいという特徴もあります。帝国データバンクの調査も、オーダーから提供までの時間が短いこと、仕込みに必要な食材を安価に調達できることを、カレー店の経営上のメリットとして挙げています。一方で、貸主の店舗の営業時間や設備の使い方に縛られる、自分の店としての認知を積み上げにくい、といった特有の課題もあります。
間借りには、貸主と借主の双方にとって利点があります。貸主は営業していない時間帯の設備を有効に使えます。借主は、小さな資金で飲食店を試してみることができます。反面、厨房の使い方、備品の置き場所、仕込みの時間、清掃の分担など、細かな取り決めが必要になります。口約束で始めるのではなく、書面で整理しておくことが、後々のトラブルを防ぎます。
営業許可と食品衛生法の見直し
飲食店を営む場合、食品衛生法に基づく営業許可が必要になります。厚生労働省の資料によると、2018年に公布された食品衛生法等の一部を改正する法律に基づく制度が、2021年(令和3年)6月1日に完全施行されました。この改正では、営業許可制度が見直され、従来の34の製造業、販売業、飲食業等が、製造業、調理業、加工を伴う販売業等を軸とした32業種に再編されています。許可の対象となる業種には、飲食店営業、菓子製造業、そうざい製造業、清涼飲料水製造業などが含まれます。
同じ改正で、営業許可の対象とならない業種を営む事業者に対して、保健所への営業届出が求められる制度も創設されました。届出には施設基準がなく、更新は不要です。一方、食品又は添加物の輸入業は、営業の届出が不要な営業として規定されています。ただし、これは営業届出の話であり、食品を輸入する際の輸入届出は別の手続きです。輸入の手続きについてはスパイスの仕入れと輸入で整理しています。
営業許可を受けるには、営業の種類や形態、主として取り扱う食品等に関する情報、食品衛生管理者又は食品衛生責任者の氏名、施設の構造及び設備を示す図面などを申請することになります。厚生労働省の資料では、都道府県が営業許可の施設基準を条例で定め、その際に厚生労働省令で定める施設基準を参酌することとされています。そのため、同じ飲食店営業でも、自治体によって細部が異なる可能性があります。
間借りで確認したい許可の論点
間借りの場合、許可の扱いをめぐっては、いくつかの論点があります。東京都の案内では、営業者が変わった場合は、新たに営業許可の新規申請が必要とされています。ただし、譲渡、相続、法人の合併または分割の場合には、条件によっては地位の承継が認められるため、事前に相談するよう求めています。間借りは営業の譲渡ではなく、時間帯を分けて別の事業者が営業する形ですので、この規定がそのまま当てはまるわけではありません。名古屋市の案内には、施設ごとに食品衛生責任者の設置が必要であることが示されています。
貸主と借主が別々の営業許可を持つのか、一つの許可でどちらの営業も行えるのかは、制度の一般論からは確定できません。自治体によって扱いが異なる可能性があるため、物件の契約や厨房の改装に入る前に、営業所を管轄する保健所に、時間帯を分けて別の事業者が営業する計画であることを具体的に伝え、必要な手続きを確認することが現実的です。施設の工事に着手する前に、設計図面を持参して相談するよう求めている自治体もあります。
食品衛生責任者とHACCPに沿った衛生管理
飲食店には、食品衛生責任者を置くことが求められます。多くの自治体では、食品衛生責任者養成講習会を受講することが資格取得の手段として案内されています。名古屋市の案内には、営業許可申請の際に、食品衛生責任者の講習会の申し込みも行うよう記載されています。講習の受け方や、調理師などの資格を持つ場合の扱いは自治体ごとに定められているため、保健所の案内で確認してください。
2021年6月から、原則としてすべての食品等事業者に、一般的な衛生管理に加えて、HACCPに沿った衛生管理の実施が求められています。厚生労働省の資料は、衛生管理計画を作成し、実施状況の記録を保管するよう求めています。小規模な営業者等は、厚生労働省のホームページで公表されている手引書を参考に、簡略化したアプローチで取り組むことができるとされています。カレー店であれば、肉や野菜の受け入れ時の確認、加熱の温度と時間、仕込んだカレーの冷却と保管、提供までの温度管理、手洗いと器具の洗浄などが、計画に盛り込む項目になります。
間借り営業では、貸主の店舗が作成している衛生管理計画との関係も整理が必要です。同じ厨房を使う以上、清掃の分担、冷蔵庫の区分、アレルゲンを含む食材の保管、共用の調理器具の洗浄方法などを、貸主と共有しておくことが大切です。万一、食中毒などが起きた場合に、営業停止などの措置が施設に及ぶ可能性もあるため、責任の分担を契約書に明記しておく例が見られます。
原価の考え方と仮定の計算例
カレー店の経営で最初に押さえたいのは、一皿あたりの原価と、固定費を回収するために必要な食数です。ここでは、すべて仮定の数値を置いた計算例で、考え方の流れを示します。実際の価格は仕入れ先や時期によって異なり、歩留まりやロスも店ごとに違います。以下は考え方を理解するための例であり、収益や利益を示すものではありません。
前提とする仮定
- メニューは、鶏肉のスパイスカレーとごはんのセット1種類。販売価格は税込1,100円(税率10パーセントとして、税抜1,000円)と仮定します。
- 1食あたりの材料は、鶏もも肉120グラム、玉ねぎ100グラム、トマト缶50グラム、油脂10グラム、スパイス類6グラム、塩・調味料少量、ごはん(米90グラム分)、付け合わせ少量と仮定します。
- 各材料の単価は仮定です。鶏もも肉は100グラムあたり150円、玉ねぎは100グラムあたり40円、トマト缶は400グラム缶150円、油脂は10グラムあたり15円、スパイス類は平均して1グラムあたり3円、米は100グラムあたり90円と置きます。
- テイクアウト用の容器や割り箸の費用は、1食あたり40円と仮定します。
| 項目 | 計算 | 1食あたり(仮定) |
|---|---|---|
| 鶏もも肉 | 120グラム × 150円 ÷ 100 | 180円 |
| 玉ねぎ | 100グラム × 40円 ÷ 100 | 40円 |
| トマト缶 | 50グラム × 150円 ÷ 400(円未満切り上げ) | 19円 |
| 油脂 | 10グラム分 | 15円 |
| スパイス類 | 6グラム × 3円 | 18円 |
| 塩・調味料 | 少量 | 5円 |
| ごはん | 90グラム × 90円 ÷ 100 | 81円 |
| 付け合わせ | 少量 | 20円 |
| 食材費の合計 | 上記の合計 | 378円 |
| 容器・割り箸 | テイクアウトの場合 | 40円 |
| 原価の合計 | 食材費と容器の合計 | 418円 |
この前提では、食材費だけの原価率は378円 ÷ 1,000円で37.8パーセント、容器を含めた原価率は418円 ÷ 1,000円で41.8パーセントです。税込価格で割ると数字が低く見えるため、原価率は税抜の販売価格を分母にして計算します。この例では、食材の単価を変えるだけで、原価率は大きく動きます。たとえば鶏肉の単価が2割上がれば、1食あたり約36円増え、食材費の原価率は約3.6ポイント上がります。
損益分岐の考え方
次に、間借りで発生する1営業日あたりの固定的な費用を仮定します。貸主に支払う賃料の按分が1営業日5,000円、水道光熱費や備品の使用料の按分が1,000円で、合計6,000円と置きます。1食あたりの粗利は、税抜1,000円から原価418円を引いた582円です。固定費6,000円を粗利582円で割ると約10.3となり、この仮定では、1営業日に11食を売って初めて固定費を回収できる計算になります。人件費、決済手数料、販促費、仕込み用の機材、保険などは、この計算に含めていません。
この計算から読み取れるのは、食数の目標を考える際の手順です。まず原価を積み上げ、次に固定費を整理し、粗利で割って損益分岐の食数を出します。そのうえで、仕込める量と、実際に売れる見込みの食数とを照らし合わせます。仕込みすぎれば食材のロスが出て、原価率が上がります。反対に、仕込みが足りなければ売り切れで機会を逃します。カレーは前日に仕込める利点がある一方で、保存と再加熱の衛生管理が重要になるため、HACCPに沿った計画と組み合わせて考えます。
仕込み場所の要件
営業許可は、施設の構造や設備が基準に適合していることを確認したうえで与えられます。そのため、営業する飲食を調理する場所は、原則として許可を受けた施設であることが前提になります。自宅の台所で仕込んだカレーを、間借りした店舗で提供したいと考える人もいますが、自宅の台所が飲食店営業の施設基準を満たすかどうか、また許可の対象となる施設として扱われるかは、自治体の判断に左右されます。計画の段階で、仕込みを行う場所と提供する場所を具体的に示して、保健所に確認してください。
スパイスの保管にも注意が必要です。ホールスパイスや粉末のスパイスは、湿気や虫、においの移りに配慮して、密閉容器で保管するのが一般的です。貸主の厨房の収納スペースを共有する場合は、自分の食材と貸主の食材を区分し、ラベルで識別できるようにしておくと、アレルゲンの混入や取り違えを防ぎやすくなります。
失敗要因を整理する
カレー店の経営環境は、決して楽観できるものではありません。帝国データバンクの調査によると、カレー店の倒産は2024年度に13件と過去最多を更新しました。背景には、欧風スパイスカレーのブームで参入が増える一方、デリバリー特需の一服、他業態との競争の激化、原材料費や光熱費の高騰があります。同調査は、スパイス価格が中長期的にも高止まりの傾向が続くとみられると記しています。
間借り営業に特有のリスクも整理できます。第一に、価格設定のリスクです。原材料費が上がっても価格に転嫁できずに原価率が悪化するケースは、倒産動向の背景とも重なります。第二に、貸主への依存です。貸主の営業方針の変更や契約の終了で、営業の場所を失う可能性があります。第三に、衛生管理の連帯です。同じ施設を使う以上、貸主の店の衛生状態が自分の営業に影響することがあります。第四に、集客です。店舗の立地を自由に選べないため、SNSやイベント出店、EC、冷凍カレーの通販など、店舗以外の販路をあわせて考える必要があります。
スパイスの仕入れ方法も、採算に直結します。ホールスパイスを自分で挽くのか、ブレンド済みの粉末を使うのか、業務用の大容量を購入するのか、小口で都度購入するのかによって、原価と手間が変わります。仕入れ先の選択肢は【比較表】国内スパイスメーカー・輸入卸・小売に整理しています。スパイスカレーの物販への展開、たとえばレトルトや冷凍の商品化については、製造や表示の許可が別に必要になる場合があり、クラフトコーラ・スパイス加工品とOEMで基礎を解説しています。
一次情報の確認先
- 厚生労働省:食品衛生法の改正について
- 厚生労働省:営業届出制度の創設と営業許可制度の見直し
- 厚生労働省:食品衛生法が改正されました(令和3年6月1日完全施行)
- 東京都保健医療局:営業許可・届出の概要(食品衛生の窓)
- 名古屋市:食品取扱施設 営業許可
- 帝国データバンク:「カレー店」の倒産動向(2024年度)
